植物から放出される天然化学物質が他の生物に、阻害、促進、あるいはその他のなんらかの影響を及ぼす現象であるアレロパシー(他感作用)の強い植物を、日本のみならず、世界各地から探索して、含まれるアレロケミカル(他感物質)を同定しようとしています。このような成分を新たな生理活性物質として役立てる研究や、このようなアレロケミカルを含む植物自身を被覆植物として直接農業に利用する方法についても検討しています。アレロパシーの強い被覆植物（たとえばヘアリーベッチやムクナ・はっしょうまめなど）を用いることで雑草を抑制し有機農業や環境保全に役立てたいと考えています。また、アレロパシーは外来植物や雑草が蔓延する要因になったり、果樹や野菜の連作障害の要因ともなるので、このような農業上の問題点についても研究しています。

「研究テーマ」

1) 重力屈性に影響を及ぼす生理活性物質の開発と農林業への利用: (KEYWORD:アレロケミカル、重力屈性、つる植物、生理活性物質) 概要:重力屈性に影響をおよぼす生理活性物質を、他感物質から検索し、その構造を明らかにし、構造活性相関を調べ、つる植物の防除や被覆植物の作出に応用する。

2) アレロケミカルの探索と新規生理活性物質の開発 (KEYWORD:アレロパシー、他感作用、アレロケミカル、他感物質、生理活性物質、生物間相互作用) 概要:植物間相互作用を検索し、生物検定法によって植物のアレロパシー活性を検定し、生物活性に基づいてアレロケミカルを単離・同定し、新規生理活性物質を開発する。

3) 外来植物のリスク評価と蔓延防止策 (KEYWORD:外来植物、アレロパシー、雑草性、蔓延防止) 既に定着している外来植物の防除判定ならびに新たに導入しようとする外来植物の導入可否判定を適切に行うために、外来植物の生態系影響リスク評価法を開発することを目的とした。 具体的には、既往の知見を基に、外来植物の生態系影響リスク（在来植物・希少種への影響、近縁種との交雑性、競争（競合）性、人畜加害性等）を類型的に明らかにし、これらリスクの発現に関連する植物の生態的特性（定着性、分布拡大能力、種子生産性、栄養生殖性等）を整理し、特性ごとにリスク発現にかかわる寄与率を係数化して外来植物のリスク評価項目を提示する。さらに、これらに、外来植物の原産地と新天地である日本の環境、病虫害および競合する植物群集等の違いなどを評価項目として加えて、日本独自の外来植物種の安全性評価システムを開発する。 そのために １）外来植物に関する内外の既往文献、データベース等に基づいて、外来植物がもたらす生態系影響リスクを類型するとともに、リスク発現に寄与する生態的特性を定量的に明らかにする。これらの結果を元に、侵入経路の特定、定着と拡散機構の解明、分布拡大予測を行う。 ２）外来植物の原産地と新天地である日本の環境、病虫害への影響評価

4) 農業生態系における導入侵入植物の化学生態的な安全性評価 (KEYWORD:導入植物、侵入植物、化学生態、アレロパシー、安全性評価) 概要:植物が生産し、根や葉から放出する生理活性物質による化学生態的作用であるアレロパシー活性の強い植物を、わが国に侵入・導入される植物や遺伝子組換え植物から探索する手法を開発し、検出した植物について作用成分を単離同定した。その作用機構を解明し、農業生態系に及ぼす化学生態的安全性評価を行う。

5) 日本発侵略的植物の分布拡大に伴う適応進化、侵略性発現に関する研究 (KEYWORD:イタドリ、オオイタドリ、外来植物、適応進化、侵略性) 概要:日本と近隣のアジア地域に自生し、19世紀以降欧米に人為的に導入され悪質な侵略的外来種として問題になっているイタドリ（Polygonum cuspidatum）、オオイタドリ（P. sachalinense）スイカズラ（Lonicera japonica）が、どのように欧米に伝搬・分布拡大し、侵略性を示すようになったか、侵略的外来種の形成機構を分子系統学・植物生態学・化学生態学的に解明し、今後の侵略的外来種抑制のための基盤情報を得ることを目的としている。そのために、日本およびアジアの自生・分布地域の、詳細な系統学・生態学・化学生態学的解析を行うとともに、欧米の侵入地域の調査と解析を行い、両者を比較することで侵略的外来植物の分布拡大と、それに伴う生態的・生殖的・化学生態的適応進化、侵略性発現機構を明らかにする。

My research activities are summarized as follows:

1) Developed of three bioassays for allelopathy that have been used by other scientists. These are the Plant Box method for root exudate, the Sandwich method for leaf leachates, and the Dishpack method for volatile chemicals. Using these methods, I have evaluated about 4,000 plant species for their allelopathy activity and found many allelopathically active plants, such as Velvet bean (Mucuna pruriens), hariy vetch (Vicia villosa) and Thunberg spirea (Yuniyanagi) (Spiraea thunbergii).

2) By means of bioassay-guided isolation of many of allelochemicals from plants, discovering many important allelochemicals such as L-DOPA from Velvet bean. We have found cyanamide from hairy vetch (Journal of Chemical Ecology, 29, 275-284, 2003). This was remarkable, since this chemical was one of the first synthetic nitrogen fertilizer and herbicides. Cis-cinnamic acid and its derivatives were also isolated from Thunberg spirea.

3) Developed the concept of total allelopathic activity (Weed Science, 58, 258-264, 2010), which provides a realistic assessment of whether a natural phytotoxin might actually play a role in allelopathy.

4) Our group was one of the first to use transcriptome analysis to probe the mode of action of allelochemicals. Our work on mode of action of allelochemicals has resulted in significant new findings such as the discovery that cis-cinnamic acid affects plant gravitropism. We have just started a new National Project to understand the role of gravitropism in the modes of action of allelochemicals.

5) Our work has had practical benefits. For example, because of our studies and recommendations, hairy vetch is now the No. 2 cover crop in Japan.